あらゆる「一目惚れ」は間違いである【宮台真司×二村ヒトシ】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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あらゆる「一目惚れ」は間違いである【宮台真司×二村ヒトシ】

どうすれば愛しあえるの:幸せな性愛のヒント

 

■女を〈物格化〉する「損得男」だらけの日本で性愛事情

 宮台 最近ある女子校で、「正しさに執る男と、損得に執る男、彼氏にしたいのはどちら?」と尋ねたら、一学年160名全員が「正しさに執る男」と答えました。当然です。損得に執る男は、いざとなったら女や家族を守らず、遁走(とんそう)する可能性があるからです()

 同じことで、子を産み育てるためには「正しさ」がどうのこうの言っていられない。だから愛が期待できなくても金目当てで結婚し、爾後、夫との間に愛を持ち込まずに婚外の男との間に愛を持ち込む。人妻専門ナンパ師だった僕が言うんだから間違いありません()

 しかし残念ながら、男が〈感情の劣化〉を被り、「正しさ」や「愛」に反応せずに専ら「損得」にだけ反応するようになります。そんな男は女を〈物格化〉する。つまり所詮は取替可能なモノ扱いする。そんな男との関係には実りがない。だから既婚者を含めて性的に退却する。「女を〈物格化〉するダメなナンパ師がのさばるのは、応じる女がいるからだ」という問題が語られがちですが、当初は女が男より劣化していなかったにせよ、努力しても損得野郎しか見つからないという現実が長く続けば、やがて断念し、断念した記憶も忘れるのが自然です。

 損得野郎しかいないので性愛に実りがないという「期待外れ」を抱き続けるのは不快です。ならば「実りを求める」という願望水準を切り下げればいい―それが断念した記憶も忘れるということ。「男が劣化すると、やがて女も劣化する」というテーゼの所以です。

 でも、女は男に比べて「承認だ、自己実現だ」と〈社会の営み〉を〈性愛の営み〉にだらしなく流し込んだりしない。「エロス的=象徴界未然的」な満足を自分の子との関係に求めるのと引き替えに、〈性愛の営み〉に意味はないと切り捨てるか、純粋な性欲のために一時の性愛に乗り出す。

 代々木忠作品に登場する自分で応募してくる素人女性たち。代々木忠ブームだったころに雑誌『FUU』や『KIREI』の「AV男優としてみませんか?」みたいな企画に応募してくる素人女性たち。僕も交流したことがあるけれど「せめて一度だけでも」という女だらけ。

 別にモノガミー(一夫一婦制)に抗おうとか、モノガミー恋愛ならぬポリアモリー恋愛(複数愛)に踏み出そうとかではない。かといって、遊びの軽薄さからはほど遠く、好奇心と言える軽さもない。「法内」の自己実現や承認じゃなく、「法外」の渾沌や眩暈を直接求めているんですね。

二村 スイッチの入った女性は、そこまでセックスに没頭し、楽しむことができる。その場においては女が搾取されているわけではなく、むしろ男は、女たちの強烈な欲望の発露に、ついていくのが精一杯……。その様は感動的ですらあります。

(『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』から抜粋)

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どうすれば愛しあえるの:幸せな性愛のヒント

宮台真司×二村ヒトシ 著

 

 

<目次>

はじめに あなたなら愛しあえる 二村ヒトシ

第1章 ほんとうの性愛の話をしよう

 

ナンパ師とAV男優

「母への恨み」と〈心の穴〉

女性が「うっすら病んでいる」世の中

男の〈インチキ自己肯定〉

男にもある「女性性」

男の名刺はペニスと同じ

なぜ男は素直にヨガれないのか

「変性意識状態」とは何か

「自分探し」より「自分なくし」

「法外」の共通感覚が支える性愛

政治と性愛は近代の特異点

享楽を奪われて正義に固執

制度よりも感情が重要だ

女は潮吹きよりハグが好き

AVの蛸壺化と勘違い男

快感の構造を侮るな

第1章 質疑応答編 61

Q 童貞脱出の方法を教えてください……

Q 女性がいま何に傷ついているのか分からない……

Q 彼女とのセックスでトランス状態にならない……

Q 女性をリスペクトすればするほど勃起しない……

Q セックスし続けても飽きない女性とは……

 

第2章 なぜ日本人の性愛は劣化したのか

 

「セックスレスの増加」と「精子の減少」

なぜ下ネタは話されなくなったのか

女が男を見極める3つの基準

なぜ若い人はセックスが下手なのか

メンヘラ女性とのセックス

アラサー以下の女性がメンヘラ化する理由

乱交とスワッピングの違い

性愛は自己承認のツールなのか

〈社会の劣化〉への鈍感さをもたらす〈感情の劣化〉

〈家族の劣化〉による〈感情の劣化〉

〈空洞的家族〉の再生産と〈性的退却〉

処方箋の鍵は〈空洞的家族〉を潰すこと

社会の中を生きるべく社会の外に出る

女性の性的ポテンシャリティ

〈感情の劣化〉から〈性的退却〉へ

なぜヒトラーはモテたのか

セックスはビフォア・アンド・アフター

「激しいセックスが好き」の意味

〈祭りのセックス〉から〈愛のセックス〉へ

「瞬間恋愛」とは何か

セックスとミラーニューロンの働き

第2章 質疑応答編

Q かけがえのない幸せを手に入れるのは困難……

Q 「性愛不全」は「身体性の欠如」も原因?

Q つきあってもいつも1、2カ月で別れてしまう……

Q AVを現実の世界と勘違いしてしまったら……

 

第3章 性の享楽と社会は両立しないのか

 

なぜ男の恋愛稼働率は女の半分なのか

社会の幸いと性愛の幸いの逆立

男の感情的劣化に対応する女

中動態の女と能動態の男の断絶

フェミニストvs オタク男子

『マッドマックス』と怒れるフェミニスト

社会が良くなれば「性愛的に」幸せになるか

「社会の物差し」対「性愛の物差し」

性愛でヒトはバンパイアに「戻る」

性愛を自覚的に損得から隔離せよ

「恋愛結婚」の誕生と「法外」の享楽

70年代の性解放とその後の展開

戦後もあった祝祭としての無礼講

先行世代の劣化で後続世代も劣化

恋愛における「真の心」の問題圏

あらゆる一目惚れは間違いである

「わいせつ」と〈なりすまし〉

昔の娼婦とAV女優の違い

「AV業界の社会化」が問題に

性のフラット化と「出演強要問題」

眩暈を排除せず包摂する統治へ

「損得」よりも「正しさと愛」だ

第3章 質疑応答編

Q 幸せなセックスを言葉で説明できるか?

Q チャットレディをやって罪悪感が残った……

Q 息子が幸せな恋愛をできるのか心配……

Q ダサいヤリチンばかりがモテるのはなぜ?

第4章 「性愛不全」から脱却する方法

 

エロい男は希少資源

メンヘラとヤリチンの共通点

「専業主婦廃止論」で言いたかったこと

相手の性愛願望にいかに応えるか

倒錯者というポジションをとろう

「良い変態」は社会の抜け道である

「委ね」「明け渡し」とヒモの資格

男と女はリバーシブルの関係に

女は詐欺師だから男よりも自由

「変性意識状態」を目指す

人間の性的エネルギーとAI

性教育とスクールカースト

第4章 質疑応答編

Q 自分が女性に何を求めているのか分からなくなる……

Q 女性が本当に性で解放されるにはどうすれば……

Q 恋愛のノウハウ情報が溢れていて正解が分からない

 

おわりに 〈なりすまし〉の勧め 宮台真司

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宮台真司/二村ヒトシ

みやだい しんじ にむら ひとし

■宮台真司 みやだい・しんじ

社会学者。映書批評家。首都大学東京教授。1959年宮城県生まれ。東京大学大学院人文科學研究科博士課程修了。社会学博士。権力論、国家論、宗教論、性愛論、犯罪論、教育論、外交論、文化論などで多くの著書を持ち、独自の映書評論でも注目を集める。著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』(幻冬舎文庫)、『いま、幸福について語ろう 宮台真司「幸福学」対談集』(コアマガジン)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『正義から享楽へ 映書は近代の幻を暴く』(blueprint)、『反グローバリゼーションとポピュリズム』(共著、光文社)、二村ヒトシとの共著『どうすれば愛しあえるの』(KKベストセラーズ)など。

 

■二村ヒトシ にむら・ひとし

アダルトビデオ監督。1964年東京都生まれ。慶應義塾幼稚舎卒、慶応義塾大学文学部中退。監督作品として「美しい痴女の接吻とセックス」「ふたなりレズビアン」「女装美少年」など、ジェンダーを超える演出を数多く創案。現在は、複数のAVレーベルを主宰するほか、ソフト・オン・デマンド若手監督のエロ教育顧問も務める。著書に『すべてはモテるためである』『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(ともにイースト・プレス)、『淑女のはらわた』(洋泉社)、『僕たちは愛されることを教わってきたはずだったのに』(KADOKAWA)、宮台真司との共著『どうすれば愛しあえるの』(KKベストセラーズ)、千葉雅也と柴田英里との共著『欲望会議 性とポリコレの哲学』(KADOKAWA)など。

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